- 駿台が「合格者数公表を終了」する理由とは
- 合格者数だけで“一喜一憂”は危険な理由
- (1)重複カウントの実態
- (2)推薦・総合型選抜の拡大と誤解
- 開成高校と筑波大附属駒場高校、東大合格者数の裏を読む
- 比較データ
- 「東大に行きたい人」は開成より筑駒が適している?
- 全国展開の予備校は「数字が大きく見える」構造
- 推薦・総合選抜対策講座を選ぶ際に見るべきポイント
- 最終まとめ:予備校・塾選びは「数より質・率」の時代へ
はじめに
2025年8月1日、駿台予備学校は2026年度入試から大学合格者数の公表を終了すると発表しました。
このニュースは、多くの受験生や保護者にとって衝撃的なものであり、同時に「塾や予備校をどう選べばいいのか?」という根本的な疑問を投げかけるきっかけにもなっています。
実は、合格者数という数字には多くの問題があり、単純に多ければ良いというものではありません。
このブログでは、駿台予備学校(以下、駿台)の決断の背景、そして私たちが今後どのように情報を読み取り、判断していくべきかを詳しく解説します。
- 駿台が「合格者数公表を終了」する理由とは
駿台は、「合格者数の数字が実態と合わなくなっている」として、公表の中止を決断しました。
その主な理由は以下の通りです。
- 生徒の学習スタイルが多様化し、複数の予備校・塾・オンライン教材を併用することが当たり前になってきた。
- 模試のみ受けた生徒も「在籍生」としてカウントされるケースがある。
- 合格者数が「成果」というより「広告」になり、実態と乖離している。
これは塾・予備校業界全体に一石を投じる大きな方針転換であり、「塾・予備校の実力=合格者数」という時代の終焉を意味しているとも言えそうです。
- 合格者数だけで“一喜一憂”は危険な理由
(1)重複カウントの実態
大学ごとの合格者数は、同じ受験生が複数の大学に合格すれば、それぞれ1人ずつカウントされます。
つまり、合格者数は「延べ人数」であり、実人数ではありません。
例えば、九州在住の医学部志望の受験生が以下の大学に合格したとします。
- 長崎大学医学部
- 福岡大学医学部
- 久留米大学医学部
- 福岡歯科大学歯学部(抑え)
この場合、予備校の合格実績では「医学部合格3名」「歯学部合格1名」となりますが、実際は1人の受験生です。つまり、生徒は1人しかいないのに、合格者は4名と「水増し」されるわけです。
こうしたカウント方式をそのまま信じると、「たくさん受かった=この予備校はすごい」と誤解してしまうリスクがあります。
ちなみにオンライン個別指導メルオンでは、「合格者数」ではなく「進学大学」を公表しています。
実際に進学した大学であれば、1人が2校、3校ということはありません。
生徒1人に対して1校だけになります。
(2)推薦・総合型選抜の拡大と誤解
近年、大学入試では推薦・総合型選抜(旧AO入試)の枠が増加しています。
特に「指定校推薦」は、出願すればほぼ確実に合格するケースが多くあります。
これらの指定校推薦入試による合格者も予備校や塾の合格者数としてカウントされますが、実際には「予備校の力で合格した」とは言いがたいのが現実です。
たとえば、ある大学の指定校推薦を希望する生徒が1人しかいなければ、特別な理由がない限り指定校推薦枠で受験でき、準備らしい準備もなく合格する生徒も多くいます。
また、東邦大学医学部の総合入試では英語や数学、理科といった学力試験は課されません。
東邦大学医学部総合入試に合格した生徒が予備校で英語、数学、理科を受講していて、総合入試対策は自分で行っていたケースもあるでしょう。
「予備校のおかげで合格した」と言っていいのか、疑問に思うケースです。
日本歯科大学生命歯学部の推薦入試は英語と小論文、面接が課されます。
数学と理科が苦手で数学と理科を受講していた生徒が、学力試験は英語だけの日本歯科大学推薦に合格することもあるでしょう。
こうした「合格者数の数字」は、教育の質を測る指標としては適切とは言いにくい面もあります。
「教育・指導の質」と言う点でいうと、塾・予備校にはフランチャイズで展開している塾・予備校もあります。
フランチャイズであれば大学受験に関する知識も経験も無い人が、いきなり塾や予備校を開くことも可能です。
こういったフランチャイズの塾や予備校の「教育・指導の質」は、やや心配な面もあります。
- 開成高校と筑波大附属駒場高校、東大合格者数の裏を読む
比較データ
学校名 | 生徒数(1学年) | 東大合格者数(総数/現役) | 合格率(現役) |
開成高校 | 約400人 | 150人(107人現役) | 約27% |
筑波大附属駒場高校 | 約160人 | 117人(92人現役) | 約57% |
皆さんもよく目にすると思いますが東大の合格者数は、マスコミも大きく報じます。
「東大合格者数、開成高校が20年連続1位」といった報道を見ると「東大に行くなら開成高校」と思うかもしれません。
東大合格者数の「ランキング」で見ると確かに開成高校が1位ですが、実は1学年の人数が約400人で、約160人の筑駒の2.5倍以上あるため、合格者数も多くなって当然と言えば当然なのです。
注目すべきは筑波大学附属駒場高校の合格率です。
1学年160人という小規模ながら、現役で57%が東大合格という驚異的な数字を誇ります。
単純な合格者数ではなく、どれだけの割合が第一志望(東大)に届いているかを見なければ、本質は見えません。
- 「東大に行きたい人」は開成より筑駒が適している?
合格者の人数だけで見れば開成が圧倒的に見えますが、実際には「東大合格率」は筑駒のほうがはるかに高いのです。
1学年の半数以上が東大に現役で合格する環境が整っていることから、
「東大に行きたいなら開成より筑駒を目指すべき」
という意見も現実味を帯びてきます。
これは予備校選びにも通じる考え方です。
規模の大きさではなく、合格率や教育の質を重視すべきという視点が、これからは必要になるでしょう。
- 全国展開の予備校は「数字が大きく見える」構造
駿台予備学校、河合塾、東進衛星予備校、四谷学院など全国展開の予備校は、それぞれしっかりとした予備校だとは思います。
全国に校舎を持つため非常に多くの生徒を抱えており、自然と合格者数も大きくなります。
医学部予備校の中にも全国に校舎を持つ予備校があり当然、生徒数も多くなります。
大量の生徒を集めれば、たとえ合格率が低くても合格者数だけは増えるため、「みんな合格させている」ように見えてしまいがちです。
そのため、「何人受けて、何人合格したか」という合格率や支援の質を見極めることも必要だと思います。
- 推薦・総合選抜対策講座を選ぶ際に見るべきポイント
学校推薦型選抜(推薦入試)の増加に伴い、各予備校でも推薦・総合型選抜(AO入試)向けの講座が増えています。
しかし、以下の点をチェックしないと、数字に惑わされる危険があります:
- 受講者数と合格者数の比率(合格率)を公開しているか?(聞けば教えてくれるか?)
- 特に医学部や歯学部の総合型・推薦入試は、大学によって試験内容が様々。その大学の推薦・総合型の試験内容に即した講座となっているか?
- 評価の対象となっていない「志望理由書」や「活動報告書」に必要以上に時間をかけていないか?
- 指定校推薦の合格者を「指導実績」として過剰にアピールしていないか?
とくに指定校推薦は、大学によっては「合格して当然」とも言える試験です。
そうした合格実績が多くても、直ちに予備校の教育力とは言えないでしょう。
- 最終まとめ:予備校・塾選びは「数より質・率」の時代へ
駿台の「合格者数公表終了」は、単なる方針転換ではなく、私たちに「単純に数字を鵜呑みにする時代の終わり」を告げているとも言えそうです。
- 合格者数は受験者の母数が多ければ増える
- 重複カウントや推薦合格者の扱いに注意
- 開成 vs 筑駒の例に見る「人数」より「率」の重要性
そして何よりも、「塾や予備校は、あなたが合格できる環境かどうか」で選ぶべきです。
大切なのは、
「どれだけ合格者がいるか」ではなく「あなたが合格できるか」
その視点を忘れず、冷静に、かつ慎重に塾・予備校を選んでいきましょう。